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SCP-3866 - 安くて楽しい by dado【解説】

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基本データ

  • 原題: Youth In Asia by dado
  • オブジェクトクラス: Safe
  • 著者: Captain Kirby
  • 訳者: C-Dives
  • 作成日: 2018年5月26日
  • 画像: Max Pixelより(PD)
  • 受賞歴: 終末の日コンテスト第2位("死の終焉ハブ")
  • リンク: SCP-3866 - SCP財団

 

三行で説明!

  1. 飲むと脳活動が著しく緩やかになり、冬眠のような状態になる薬
  2. ΩK-クラス“死の終焉”シナリオが起こった世界線でのお話
  3. 薬剤師兼店舗オーナーをしている要注意人物の「dado」が作った

 

記事の解説

 特別収容プロトコル

非常に短くてシンプルですので、全文引用しちゃいますね。

 既知の全SCP-3866実例はサイト-23の安全ロッカーに保管されます。実験は長期ヒト型生物収容ポッドが利用可能な場合のみ行われます。

 …これだけです。読んだままの通りですね。

後述の通り、飲むと数か月間眠ってしまうので、ロングスパンで実験することになります。

 

説明

SCP-3866は、フロリダ州の非公認医療施設で財団が押収したものです。

SCP-3866は即効性で、飲むと脳の活動が急激に低下し、心拍数も1拍/約34日*1というほぼ停止レベルまで遅くなります。

生き物の心臓が一生のうちに拍動する回数はだいたい決まった数になるといわれています。身体の活動がほぼ止まるということは、その分長生きできることを意味します。

シミュレーションでは、SCP-3866を飲んだ状態なら、酸素や栄養の供給さえ継続されていれば、軽く3000年以上は生きられると見積もられています。

 

補遺SCP-3866-1

補遺1にはこのオブジェクトの発見経緯が書かれています。

発見したのは財団の機動部隊イプシロン-6(“村のアホ”)*2でした。

彼らがフロリダの医療施設まで派遣された理由は、この施設が地域住民の自殺幇助を行っているとの疑いがあったからです。

 

…もちろん、ただの自殺幇助なら普通の警察が動けばよく、財団は動いたりしません。

わざわざ財団の機動部隊が動いたのは、「自殺幇助」という行いを実行できていること自体が異常だという確信があったからです。

 というのは、財団が動いた時点で、世界では生き物が死ななくなっていたからです。

 

ΩK-クラス“死の終焉”シナリオとは?

文字通り、「死」の概念が突如としてなくなった世界になることを指します。

問題なのは、変化が起こったのは死についてだけで、その他の人間の生理活動は変わらないということ。加齢もすれば出産もするし、痛みも苦しみも感じるわけです。

この辛さは計り知れません。

(この、死がなくなったという設定の世界観の上に成り立つ記事は、本記事の著者であるCaptain Kirbyさんが中心となって立ち上げられた「死の終焉ハブ 」にまとめられています。ご興味があればぜひ他の記事も読んでみてください。)

 

つまり、「死なない」という異常な摂理が原則となってしまった世界が舞台であるため、安楽死できる薬」は"異常物品(アノマリー)"として財団の収容対象となる、というわけです。

 

 「死ねる薬」の甘い誘惑

死の終焉した世界では、安楽死が全人類の夢となっています。

死は救済どころではなく、ここでは死こそ医療なんですよね。 

ところが、財団ですら「死ねる技術」を開発できていない*3にもかかわらず、フロリダのモグリの医療施設で安楽死医療が行われているというのはいかにも怪しい。

そこで、財団は機動部隊を派遣した、といういきさつだったわけです。

 

その結果、この施設の医療行為は異常ではありましたが、詐欺でもありました。

アノマリーを使ってはいたものの、患者は死ねていなかったのです。

 

イプシロン-6はこの施設のオーナーと従業員を全員拿捕しました。

オーナーのポスマン氏の携帯からは、"dado"と呼ばれる人物とのメッセージ記録が残っていました。

このdadoこそ、SCP-3866の製造者です。

 

dadoとは?

本家SCP著者界の風雲児djkaktusさんが生み出した要注意人物*4

2018年1月31日に投稿されたSCP-3521 "強制的バナナ等価線量 by dado"にて初登場しました。

 

異常な製薬技術を持っており、クライアントの希望に沿った薬を、目的通り正確に、かつ迅速に製造するとてつもない腕を持っています。

…が、どうにも英語が上手でなく*5、完成品は顧客のニーズから微妙にズレた解決法へ導くものとなっているのが特徴です。

効果は完璧だが目的がそもそもズレている、というのがdadoスタイル。

その他、Amazonプライム会員であり送料いらずなことをセールスポイントにしたり、クリーニング店と日焼けサロン(dado本人いわく「せんたくとひやけ」)のオーナーであることを公表していたりと、謎多き人物です。

 

ねむい じかん おひるね とる させる おくすり

そんなdadoが作ったSCP-3866。

例にもれず、この薬も本来の目的とはズレています。

 

dadoはポスマン氏から「安楽死用の薬を作ることは可能か?」と尋ねられるも何のことかわからず、「やすたのしよう?」と答えます。

さらに「人を殺す薬だ。苦しくない、安らかに眠れるような」とのオーダーを受け、dadoは「おー。 はい はい わたし あなたの ための おくすり ある。 いちばん ながい ねむり。」と答えました。

 

ポスマン…安楽死の薬だと思っている

dado…長くぐっすり眠れる薬だと思っている

 

うーんこのすれ違い。

ポスマン氏はそのまま勘違いに気付かず、dadoからSCP-3866を受け取り、患者たちに投与し始め、安楽死ビジネスを続けた結果、財団に嗅ぎつけられたというわけです。

 

補遺SCP-3866-2

7月の上旬になり、この医療施設の裏手から絶叫やすすり泣きが聞こえるという報告が相次ぎました。

声の主は、SCP-3866を飲んで眠りにつき、従業員らによって勝手に埋葬された541名もの元患者たちだったのです(しかもその内491人は棺に入ってすらいない)。

念願の叶ってようやく死ねたと思ったのに死ねず、しかも薬の効果が切れて起きたら真っ暗で虫の這い寄る土の中。まったくひどい仕打ちです。

 

とんだ詐欺に遭った患者たちは、財団によって掘り起こされ、記憶処理を受けて元の生活に戻っていきました。

 

ちなみに

原題は"Youth In Asia by dado"となっています。

直訳すれば「アジアの若者」ですので、なんのこっちゃ?と思うタイトルに見えますが…、

これは「ユースィネイシャ」と発音しますので、"euthanasia(ユーサネイシャ、安楽死の意)"という英単語と同音語となります。

安楽死」をdado流に表現した場合のタイトルだった、というわけです。

『安くて楽しい』は、非常に巧い訳語だといえるでしょう。

 

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関連する外部リンク

 

w.atwiki.jp

*1:成人の平均心拍数は約70拍/分。したがってSCP-3866を飲んだときの心拍リズムはなんと約343万分の1!

*2:農村部や都市郊外の環境における異常存在の調査を専門とする部隊。英語の"Village Idiot"は美術や社会学で用いられる用語で、多くの場合知的障害や無知さゆえに村落の社会規範や支配階級の意志に従わない者達を指します。

*3:死の終焉した世界でも死ねる現在唯一の手段として、SCP-4514 "お前を殺す物"が使えますが、財団の技術ではまだ死ぬことができません。

*4:本家ハブページのディスカッションや、海外のYouTube動画によれば「ダドー(dah-doh)」と読みます

*5:dadoの打つメッセージは大文字がなかったり、発音で単語を覚えているせいかスペルミスが多発していたりします。日本語版では「漢字を使わない」、「てにをはをちぐはぐにさせる」ことで、このカタコトさを上手に表現しています。