SCP-3311 - ありとあらゆるありふれた椅子【解説】
<読んでSCPをすこれ!>
— 総たいしょー (@thor_taisho) 2019年6月2日
SCP-3311: ありとあらゆるありふれた椅子
探査ログの「うわぁ、成程ね。椅子だわ。」の一言にすべてが集約されるオブジェクト。
概念とは、意味とは何かを探るシュールな記事。
椅子と椅子以外との間に違いってあるの?座れるなら椅子だよね?ところで貴方はどの辺が貴方なの? pic.twitter.com/B26AJGJXn4
基本データ
- オブジェクトクラス: Euclid
- 著者: Billith
- 訳者: C-Dives
- 作成日: 2018年1月17日
- 画像: Flickrより(CC BY 2.0)
- リンク: SCP-3311 - SCP財団
三行で説明!
- おそらく無限に広がる、多種多様な椅子が陳列されているコンテナ
- 中に入った人には軽い認識影響が及び、存在や概念についての考え方が揺らぐ
- この空間を作ったのも「椅子」だと思われ、到達可能な最奥には動く椅子が多数ある
記事の解説
特別収容プロトコル
閉鎖・施錠し、警備員に扮した財団エージェントを1名配置します。民間人は当然立ち入れませんし、財団職員ですら実験以外では入場禁止です。
Euclidの場所系オブジェクトなので、かなりシンプルな取り扱い方です。
説明
SCP-3311は、フロリダ州にある保管ユニット、つまり倉庫です。元々は何かの施設か企業が所有する、ある程度大きい倉庫群だったようで、非異常性の倉庫と隣合わさってくっついているので、SCP-3311だけをこの場所から動かすことができません。つまり、SCP-3311の異常性は後付けで発生したことが示唆されています。
SCP-3311の内部は、ありえないレベルで奥行きが広がっており、財団は585㎞地点まで探査できましたが、未だ向こう側の壁に辿り着けていません。無限に拡張されているとも思われています。しかも廊下はまっすぐではなく微妙にカーブしているため、目視で遠くがどうなっているか判断できないようです。加えて、内部は電波状態が悪く、探査の度に通信用の中継器を配置したり整備したりする必要があります。GPSの信号はSCP-3311の入り口から5m地点で止まってしまいますが、中継器が働いている限り消失はしません。
SCP-3311内部に入った人間は軽い認識災害に見舞われます(詳細は後述の探査記録にて)。
SCP-3311最大の特徴は、その無限に続く廊下の両脇に、多種多様な椅子(SCP-3311-1)がずらりと陳列されるショーケースが広がっていることです。
財団は300万脚もの椅子を確認していますが、重複した椅子は1つもなく、世界のどこかに実在する椅子と同一のようです。いわば椅子万博。
しかも、ここにある"椅子"はかなり広義のものらしく、クッションや切り株、椅子でできた椅子、果ては SCP-1609 "椅子の残骸"*1のレプリカまで、腰掛けられるなら"椅子"とみなされていることが窺えます。
SCP-3311は、元の利用者の賃料未払いによって差し押さえられた際に、内部の異常な空間を目撃され、財団に発見されました。明らかに怪しいのがこの元の利用者ですね。この人物は老人ホームにいたそうで、財団はインタビューを実施しました。その顛末は記事の最後に登場します。
探査ログ
探査ログは3つあります。
Dクラスと博士との会話もわりと面白いですし、内部の異様な光景がありありと目に浮かぶので、ぜひ読んでみてください。
ここでは、各ログの要約にとどめます。
探査ログ3311-A
- SCP-3311への最初の探査で、女性のDクラス職員が担当
- 3日間かけて254㎞地点まで中継器を設置するのが目的
- 内部はなぜか明るく、コンクリート製で、静かだった
- 観察されたすべての椅子には"店頭見本"という彫り込みがなされていた
- 突如引っ掻き音がし、何者かが存在することが示唆された
- Dクラスは椅子について思考を巡らせすぎるようになり、「椅子の特色を私が取り入れる」「椅子はイデア」などと発言するようになった
- 53㎞地点の中継器が突然壊れ、しばらくDクラスとの通信が途絶えた
- Dクラスは目的を果たして帰還したが、軽度のPTSDと、椅子や椅子に座る行為を嫌がるようになった
SCP-3311の認識災害は、「椅子」の概念を揺るがす効果を持つようです。
もちろん、通常の精神疾病も絡むでしょうが、それにしたって「椅子はイデア」は言い過ぎでしょう。椅子について哲学しすぎて気を病んでしまうわけです。
引っ掻き音を出したり、中継器を壊したりする何者かがいるようですし、まだまだ侮れません。
探査ログ3311-B
- SCP-3311への2回目の探査で、男性のDクラス職員が担当
- 53㎞地点の壊れた中継器を交換し、前回よりさらに奥に進むのが目的
- Dクラスが司令部の許可を得てショーケースのガラスを割ると、警報が鳴り響いた
- Dクラスは椅子のうち1脚に座って「心地いい」と述べた
- 前回よりも騒音や異音が頻繁に発生した
- ショーケースの外の通路上に放置された椅子が見つかった
- 少し目を離した隙に装備品のバックパックが中身を残して無くなった
- 奥に進めば進むほど陳列されている椅子の奇妙さが増すことが判明
- 失くしたバックパックはケース内に陳列されていた
- Dクラスは「空気が椅子の存在で満ち溢れてる」と発言した
- 300㎞地点でDクラスは何かに体当たりされ、消息が途絶えた
2回目の探査では、Dクラスは帰還できませんでした。
ここでも、「椅子」概念の曖昧化が見て取れます。よく考えたら、座れるなら"椅子"と呼んで差し支えないわけで、リュックも切り株も岩も、時には人間も椅子になり得ます。
そこに思い至った時、「じゃあ私は何なんだ、私は本当に椅子じゃないといえるのか?」というある種の根源的恐怖を感じるわけです。この空間に確実にいる謎の存在よりも、この"問い"こそが本記事のクリーピーさの核をなしています。
探査ログ3311-C
- 中継器の配置機能を備えたドローンによる探査
- それまでの最大到達地点だった313㎞よりも奥に中継器を設置するのが目的
- 前回Dクラスが座った椅子は元の位置に戻っていたが、ガラスは割れたままだった
- Dクラスが消息を絶った地点には彼の装備が残っていたが、本人は見つからなかった
- ショーケース内で動き回る椅子があり、ガラスを叩いて音を立てていた
- 400㎞地点半ばから、区画全体が苔で覆われているのが確認される
- 485㎞地点で、前回消息を絶ったDクラスの死体が椅子の形となって陳列されているのが見つかる
- さらに奥で、ショーケースの外で動き回る椅子たちと遭遇する
- 585㎞地点で、ドローンは1脚のアンティーク椅子に踏まれ、ショーケース内に転送され、バッテリーが切れる
奥へ進むほど、"椅子"として展示されている品の珍奇さに拍車がかかるのが面白いです。肉の塊でできたバースツール(下記のような、バーにあるような背もたれ無し椅子)とか。サーキックや石榴倶楽部の方なら喜びそうですけどね。
面白いのは、以前の探査ログを担当した2名のDクラスの発言は割と的を射ていたという点です。
人間も"椅子"の概念の範疇に含まれうること、椅子が椅子取りゲームをするらしいこと、椅子に腰かけられる(傍から見たら「踏まれた」ようにしか見えませんが)と、"椅子"認定されて陳列されてしまうこと…。
何度も言うように、"椅子"と"椅子以外"との概念の境界がどんどんわからなくさせられる空間が、SCP-3311なのです。
事案ログ3311.1
ドローンの探査から8日後、あのDクラスの死体でできた"椅子"が、とあるブランドの事務椅子を収めたはずの梱包箱から発見されました。その死体には"店頭見本"という彫り込みがありませんでした。
そういえばSCP-3311の中にある椅子はどれも世界のどこかに同じものが存在するという話でした。つまり裏を返せば、SCP-3311の中で椅子ができた場合、外部の世界のどこかに「正規品」として出現してもおかしくありません。
400㎞地点を超えたあたりでかなり奇妙な"椅子"が多々あったので、財団の仕事は思ったより多そうです。
インタビューログ
財団は、収容前のSCP-3311を15年間所有していたレイモンド氏の居場所を突き止め、インタビューを試みました。彼以外にこのコンテナを使った人物がいないため、唯一の重要参考人です。インタビューのあらましは以下の通り。
- レイモンド氏は財団が来るのを予期していたが、SCP-3311(コンテナ)の件で話に来るとは思っていなかった
- レイモンド氏はかつて「最初の椅子」に出会い、その椅子の作業場としてSCP-3311を提供した
- 「最初の椅子」は"形而上学的に大きい"椅子であり、椅子の概念を最大限体現する存在
- 「最初の椅子」はそれゆえ常識よりもずっと広い"椅子"の範疇の枠内にあり、その広い"椅子"概念を他の椅子に与えることができる
- SCP-3311が差し押さえられたのは、単にレイモンド氏のお金がなかったから
- 「最初の椅子」は"椅子"の概念をあらゆるものに適用させ拡げるのを野望としている
- 「最初の椅子」は"椅子"に命を吹き込む能力をも持つことが示唆される
カフカ的解離性
怖いのが、この記事には「メタ」のタグがついていることです。つまり、普段の生活に繋がるホラー要素があるということ。
例えばあなたが今座っている椅子は、椅子ですよね。
座布団でしたか。すみません。じゃあ、その座布団は椅子なんですか?
電車のシートは椅子でしょうか。でしたら、電車全体も椅子なんじゃないですか?
路傍の柵に学生が腰かけていますね。あれはもう椅子で確定でしょう。
あなたは小さい子供を膝に座らせたことはありますか?じゃああなたも椅子なんじゃないですか?
あなたが椅子である、または椅子になる時もある、として、だったら逆に椅子が自分の足で動いてもおかしくないことになりますね。
"あなた"と"椅子"の違いは何ですか?
よくよく考えてみてください。
どうぞ、ご自宅の椅子にでも腰かけて。
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関連する外部リンク
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*1:OC:Euclid テレポートができる椅子。世界オカルト連合に破壊されて以降、敵対的になってしまった。GOCやらかし案件として財団内でよく引き合いに出されている模様。