読んすこアーカイブログ

こちらは怪奇創作サイト「SCP財団」の記事を紹介するTwitterの個人企画《読んでSCPをすこれ!》のまとめブログです。掲載しております記事の内容および画像のすべてはCC BY-SA 3.0ライセンスに準じて公開します。(紹介済みの記事一覧はこちら→https://togetter.com/li/1429603)

SCP-1736-JP - スライディング・ドア【解説】

f:id:Taisho208:20200419150317j:plain

基本データ

  • オブジェクトクラス: Euclid Thaumiel
  • 著者: Tsukiyomizuku
  • 作成日: 2018年12月23日
  • 画像: 著者にて作成(CC BY-SA 3.0)
  • リンク:SCP-1736-JP - SCP財団

 

三行で説明!

  1. 日本で電車への駆け込み乗車が発生すると、平行宇宙が分岐する現象
  2. たまにエラーが発生し、駆け込んだ人が記録や記憶ごと世界から消滅する
  3. 財団はこの現象の制御に成功し、危険度と緊急性の高い実験試行に利用している

 

記事の解説

まずはダミーの報告書(OC:Euclid)の内容を要約します。

  • SCP-1736-JPは電車のドアに何も挟まってないのに検知器が反応する現象
  • 日本全国の電車に不定期(2日~2年のまばらな間隔)で発生する
  • 当初は超常現象記録に登録されていたが、発生圏の広さと継続性ゆえSCPナンバーが割り振られた
  • 別の異空間系SCPを担当していたエージェント・坂田は、過去にSCP-1736-JPが発生した駅の利用者でもあった重要参考人が行方不明になったと報告した
  • しかし、エージェント・坂田以外に誰もその人物を知らず、記録も残っていなかった

電車に乗ってるとたまにありますよね、ドアが閉まろうとしても2,3回開いちゃうやつ。

もちろんそれは別の車両で駆け込み乗車があったからであり、電車の遅延にもつながる迷惑行為なわけですが…、このSCPではその現象が「どのドアにもなにもなかったのにドアがいったん開く」ものとして取り上げています。

日本全国で発生し得て、発生間隔も不定期とのことで、観測がかなり難しそうです。

 

では、レベル4クリアランスを認証して、このSCPの本質に迫りましょう。

 

特別収容プロトコル

真のオブジェクトクラスはThaumiel。ただごとじゃありません。

ダミーの報告書ではSCP-1736-JPは放置しても問題なく、駅の監視カメラの自動検閲でよいことになっていました。

しかし、真の報告書では、日本国内すべての鉄道車両のすべてのドアに"時空変動観測器"と監視カメラが設置され、ドア開閉のたびに駆動することになっています。これ膨大な数ですよね、めっちゃお金かかるやん。

さらに、別のSCPオブジェクトが生み出したという異空間の中に、以下のものを保存しておくよう定められています。

  • 財団の全データベースのバックアップ
  • 現在進行形の世界情勢の詳細な記録
  • 日本の住民票の全データのバックアップ
  • ※以上は毎日欠かさず更新する

これまた膨大な作業とデータです。

ここまでする理由は、SCP-1736-JP-2が発生した際に、財団が存在する宇宙のデータと、異空間の中にあるバックアップデータを照らし合わせて、差異(=現実改変)が生じた部分を突き止めるためです。

おわかりになるでしょうが、改変されるのはこっちの世界側です。正史は異空間にあるバックアップの方。このため、Thaumielでありながら、SCP-1736-JP-2の発生を食い止める方法が模索されています。

さらに、このプロトコル2032年に以下の通り更新されています。

(2032/8/25追記)SCP-1736-JP-1が観測された場合、担当チームはプロトコル"Alternative"を実施して下さい。プロトコル"Alternative"実施のため、SCP-1736-JP-3はプロトコル"Entrench"に基づいて厳重に管理されます。

ここまででいったんまとめましょう。

  • SCP-1736-JPの真のオブジェクトクラスはThaumiel
  • SCP-1736-JP-1はプロトコル"Alternative"の合図となる
  • SCP-1736-JP-2は現実改変現象のため、前もって異空間に世界のデータのバックアップが保管され、事象発生時にデータ照合・改変箇所の特定が行われる
  • SCP-1736-JP-3はプロトコル"Entrench"に基づいて厳重に管理される。

 

説明

プロトコルでも見ましたが、本来のSCP-1736-JPは3つの異常現象/物品の総称です。

 

SCP-1736-JP-1

-1は、時間軸の分岐現象およびそれに伴う宇宙の分裂現象です。

発生条件は、①人間が日本の駅で駆け込み乗車をしようとすること/②その電車のドアが連動式自動ドアであること/③前回発生から約5時間~10か月のインターバルが経過していること の3つを同時に満たすこと。

-1が発生したその瞬間、宇宙は"対象が乗車できた宇宙"であるSCP-1736-JP-Aと、"対象が乗車できなかった宇宙"であるSCP-1736-JP-Bに分裂します。

-Aと-Bの差異はごくわずかですが、しかし確実に異なる世界線として並走することとなります。-1の発生時に"微弱な時空歪曲波"が発生するのがその証拠です。

 

SCP-1736-JP-2

-2は、上記のカバー報告書で言及されている「SCP-1736-JP」の正体であり、-1の発生エラーです。つまり、本質的には-1と同じもののはずが、まったく異なる結果に終わった場合を指しています。-2というよりはむしろ-1の派生形という感じです。なので下記の通り-1との違いを踏まえるとわかりやすいと思います。

  • 時間軸も宇宙も分裂しない
  • 駆け込んだ人は記録や記憶ごと宇宙から存在が消える
  • 強力な時空歪曲波が発生し、時空間が損傷する

駆け込んだ瞬間にその人がいなくなるなら、自動ドアは普通に閉まるはずですが、どうやらドアだけは-2の影響を受けないようであり、世界から消えて忘れ去られたはずの駆け込み者をドアさんだけは挟んで気付いてくれます。優しい。

対象が経歴ごと抹消されるので、-2による現実改変の影響は甚大です。加えて、不定期に発生しかつ日本の中の誰が-2に巻き込まれるかわからない点が観測と検証を非常に難しくしています。このため、プロトコルで見た措置が取られているというわけです。

 

SCP-1736-JP-3

-3は、とある会社の鉄道車両用ドア開閉装置です。

自動ドアに取り付けられると、電源接続の有無にかかわらず活性化します。その効果は、-A宇宙と-B宇宙で同時に活性状態にある場合に、-3が取り付けられている自動ドアを-Aと-Bを繋ぐポータルにするというものです。

-3になぜこのような異常性があるのかはわかりませんが、互いに非常に似通っている宇宙同士である-Aと-Bを繋げられるというのはなかなか有用です。

ただし、-3が繋ぐことができるのは、直前に起こった-1により発生した-Aと-Bのみであり、それよりも前(枝分かれの大元)の宇宙とは接続できません。

-3を取り付けた自動ドアは、-1や-2が発生した時のドアの動きと連動します。すなわち、日本のどこかで-1が発生すると同時に閉まり、すぐにまた開きます。また、発生したのが-2だった場合、ドアはものが挟まったときと同じ動作を見せます。

 

発見経緯

SCP-1736-JPの中で、先に発見されていたのは-2と-3でした。

-2は、当初はダミーの報告書の通りの現象だと思われており、監視が継続されていました。

-3は単に"取り付けると勝手に動作する自動ドア開閉装置"としてAnomalousアイテムに登録されていましたが、その動作が-2と完全に同期していたことが判明し、SCP-1736-JPの関連オブジェクトに認定されました。その後、観測により-A宇宙と-B宇宙の分岐が発見され、その現象は-1に指定されるとともに、レベル4機密情報となりました。

-2の真の異常性が発覚した経緯として、上記ダミーの報告書に書いてあったエージェント・坂田の証言が関わってきます。ある日に-2が発生した際、エージェント・坂田は別のSCPオブジェクトである異空間の中で仕事をしていたため、彼だけが-2の記憶改変を被らなかったのです。彼の証言によって、-2が人の存在を抹消するという事実が明らかになりました。

 

補遺

"非常によく似た平行宇宙を生み出す"というSCP-1736-JPの異常性は、財団にとっては非常に有用です。その利用法こそがプロトコル"Alternative"*1です。この方法が確立されたことで、SCP-1736-JPはThaumielに再指定されました。

 

プロトコル"Alternative" 概略
  • 危険度の高いプロジェクト(実験)を実行しても人類社会が存続する可能性を高めることが目的
  • -1の発生が確認されたら、直ちに今の宇宙が-Aと-Bのどちらなのかを同定する
  • -Aの財団は、事前にO5評議会が選定したプロジェクトを行う
  • -Bの財団は、-Aへの資源供給が必要な場合を除いて、観察以外の干渉をしない
  • SCP-1736-JP-3はプロトコル"Entrench"に基づいて管理する
  • 実施されるプロジェクトは、緊急性が高く、Kクラスシナリオの発生リスクが高く、成功率30~70%と見積もられ、目的に対する代替プロジェクトが存在し、-Bに与える影響や危険性がごく少ないものに限られる

つまるところ、-Aになったら貧乏くじということです。

駆け込み乗車が成功してしまうと、世界を賭けた実験をする羽目になります。-Bはその顛末をよく観察し、もし失敗して-A宇宙が破滅した場合は別の手段を講じる準備をする、というわけです。

 

プロトコル"Entrench"*2は、-3の取り扱い方のことです。-3はできるだけ使わないよう厳重に保管されます。なぜなら-B宇宙を死守するため

O5-8の解説によれば、プロトコル"Alternative"制定にあたっては反対意見も多く挙がったとのことです。-A宇宙の財団が背負うリスクが尋常ではないのでそりゃそうですけど。

とはいえ、いつかはやらなければならない実験でしょうし、-Aも-Bも全く同じ構成員と主義や思想を持つ「財団」なので、あとになって離反されたりする心配はないそうです。-Aになるか-Bになるかは同確率ですから、このへんはうまく不和なくできてますね。

 

プロジェクト実験記録の抜粋

SCP-2460の軌道を変える

SCP-2460 "暗黒衛星"(OC:Keter)は暗黒物質の塊であり、地球の10万倍もの密度を持ち、電磁荷を全く持たないため、直径22キロメートル以上の小惑星相当の質量でなければ、干渉することができません。放っておけばSCP-2460は徐々に落ちてきて、地球を構成する量子の位相を変換すると考えられています。

この実験では、上述した規模の小惑星をうまいこと接触させずに近づけ、その引力でSCP-2460の軌道修正に成功しました。

SCP-078-JPを宇宙に捨てる

SCP-078-JP "永久カイロ"(OC:Keter)は酸化反応を無限に継続して温度が上がり続けるカイロです。SCP-1736-JPの記事において、永久カイロにはとある事案が起こって収容セルの密閉が不能となり、温度は摂氏4万度を突破してしまっています。

この実験では、超合金ケースに入れて即座に宇宙に運ぶことで事なきを得ました。未来の実験で成功率も52%とはいえ、財団の底力が透けて見えます。

SCP-2191-3原子爆弾で吹き飛ばす

SCP-2191 "ドラキュラ工場"(OC:Keter)はサーキック・カルトにおいてイオンの妾とされる神格で、バルカン半島全域を覆う66万平方キロメートルもの領域に触手を拡げ、寄生生物を生み出しています。まもなく何らかの「子」を産むと言い伝えられており、SCP-1736-JPの記事内ではそれがプロジェクト選定時点からわずか8か月後であるとされています。

この実験は失敗に終わり、SCP-2191-3の子らが解放されてバルカン半島に壊滅的な被害が及びました。ただ、Kクラスシナリオには至らなかったようです。

SCP-571を別の中国支部のSCPオブジェクトで無効化する

SCP-571 "自己喧伝性感染図形"(OC:Keter)は強力なミーム性図形で、これを目にした人はこの図形を描いて他の人に見せる行為にひたすら執心し、餓死するまでそれを続けます。SCP-1736-JPにおいては、この図形がなぜかインターネットで拡散されてしまい、財団による情報統制を懸命に続けたとしてもあと13か月でAK-クラスシナリオ*3に至る見込みです。

この実験では、反ミーム性をもつSCP-CNオブジェクトを使うことで、SCP-571の効果を打ち消すことに成功しました。(ただし、効果が復活する可能性があるのでNeutralizedにはなりません)

SCP-188-KOのワイヤーを加熱することで徐々に膨張させ、切断する

SCP-188-KO "地球の心臓"(OC:Keter)は、地球の重心を少しずつ確実に引き上げ続けているクレーンです。SCP-1736-JPにおいてはあと5年で世界が滅ぶところまで進行してしまっています。ワイヤーを切ると引き上げられた地球の重心が落ちて揺れ動くので、そのショックで地球が壊れる恐れがあります。そのため、この実験ではワイヤーを極限まで引き延ばすことでショックをできるだけ和らげる腹積もりでした。

結果は失敗。地球の重心は本来の位置から95メートルずれたところから落下しました。フランス支部のSCPオブジェクトを利用して、直接的なKクラスシナリオは免れましたが、今回の-A宇宙は地殻変動に脆弱になったとのことで、受けたダメージは深刻そうです。

グレートブリテン島全域に拡散した"SCP-████-ω"をループ空間に閉じ込める

プロジェクト選定時点で、このSCP-████-ωなるオブジェクトはSK-クラス:支配シフトシナリオ*4を現在進行形で起こしているとのことです(「拡散」「SK-クラス」のキーワードから連想されるSCPオブジェクトもいますが、まあ深いつながりはないでしょう)。

このループ空間を作るために3つのSCPオブジェクトを使われ、その間に923名の財団職員と約35000人の民間人が犠牲になったとのことです。グレートブリテン島は事実上放棄されました。

しかもこのSCP-████-ω、SCP-1736-JP-2の現実改変作用によって生成された異常存在なのだそうです。ドアに挟まれて消えていった人たちだったんでしょうかね…。

この事案によって、SCP-1736-JPには無視できない副作用があると判明しましたが、プロトコル"Alternative"は継続されることが決定しています。選択肢を増やせることは未来の可能性が広がるも同義ですからね。

しかしながら、他の多くのThaumielオブジェクトと同様、大きなリスクも抱えているこのプロトコル。分岐し続ける宇宙もどうなるかわからないというわけです。

 

電車のドアが閉まらなくて少しイライラ…、という日常の風景から、思わぬスケールのお話へ連れていかれるSCPでした。

物語のヒントはみなさんの生活のすぐそばに転がっているかもしれないですね。

 

関連記事

<まだありません>

 

関連する外部リンク

<まだありません>

*1:「代替」「二者択一」という意味の英語。

*2:塹壕で囲む」という意味の英語。

*3:人類の知覚または思考プロセスの崩壊によって、人間がみんな狂ってしまう世界終焉の形。

*4:地球の支配種、すなわち文明の旗手の役割が人類から別の生物種に交代する人類滅亡の仕方。