読んすこアーカイブログ

こちらは怪奇創作サイト「SCP財団」の記事を紹介するTwitterの個人企画《読んでSCPをすこれ!》のまとめブログです。掲載しております記事の内容および画像のすべてはCC BY-SA 3.0ライセンスに準じて公開します。(紹介済みの記事一覧はこちら→https://togetter.com/li/1429603)

SCP-1367-JP - 特別収容違反プロトコル【解説】

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基本データ

  • オブジェクトクラス: Euclid
  • 著者: noyama
  • 作成日: 2018年5月16日
  • 画像: Pixabayより(CC0)
  • リンク: SCP-1367-JP - SCP財団

 

三行で説明!

  1. 閉じ込められた時に限り高い知性と異常能力を発揮するシマリス
  2. どんな堅牢な部屋に閉じ込めても、超絶技巧によって必ず突破し脱出する
  3. 財団は二重の収容施設を作り、内側の収容室からはわざと収容違反させている

 

記事の解説

かわいい顔して、財団にとって天敵といえるリスさんです。

 

特別収容プロトコル

SCP-1367-JPには小型GPSチップが埋め込まれ、森のど真ん中に位置する収容室に閉じ込められます。

収容チームはこの収容室からSCP-1367-JPが脱走した時に初めて出動し、非活性化したのを見計らって捕獲・再収容します。ただし、森の外縁に200m以内まで近づいた場合は、非活性化していなくとも捕獲部隊り-4("サービス残業")が出動し、森から出るのを阻止します。サービス残業て。

 

説明

SCP1367-JPはシマリス属の不明種で、普段は通常のリスと同じ生態を見せますが、檻や部屋に閉じ込められると不定期に活性化し、異常な知能と特殊能力を発揮して脱走します。

活性化したSCP-1367-JPは口をワームホール化して、中から様々なもの(SCP-1367-JP-A)を取り出すことができます。口から出したアイテムを使って、収容を突破するわけです。

 

インシデント記録

SCP-1367-JPは当初口から針金を出してピッキングにより檻の錠を開けるだけのリスだと思われていたためAnomalousアイテムに登録されていました。

ところがある日、このリスは口からシリコンを分泌し、担当博士の指紋をとることで認証を突破、さらにパスワードを入力することでAnomalous実体収容室の扉を開錠してみせました。これを受け、SCP-1367-JPはEuclidに再分類されました。

その後のインシデント記録は以下の通りです。

  • 収容室入り口の扉に静脈認証を導入→口から発煙筒を出して煙幕を焚き、通気口から逃走。しかも通常のエゾシマリスを影武者として置いていくという周到ぶり。
  • サーモカメラを追加導入→口から大量の海水を出し、混乱に乗じて逃走。
  • 中脅威度動物の収容室に移動の上、排水装置を追加導入→口から出した"何か"によって壁はおろか直線上のあらゆるものを200mにわたって溶解させた。職員数十名が死傷。

と、過剰なまでの脱走能力を秘めていることがうかがえます。

置かれた状況に対し随時突飛な手段で対応するさまは、クソトカゲを彷彿とさせます。実際、担当の収容スペシャリスト・栗木もKeterクラスへの再分類を申請しましたが、サイト管理者により却下されてしまいました。その理由は…、

これまでの事例から、このアノマリーは収容を厳重にすればするほど脅威度を増してしまうと考えられます。工夫してください。皆さんの努力に期待します。

部隊名の"サービス残業"といい、ここでは財団がちょっとブラック企業的に描かれておりますね。しかも、収容スペシャリスト・栗木は異動を申請しましたがこれも却下されてしまいます。中間管理職・栗木の胃痛が心配。

 

誰にとっても時間は平等に過ぎるからこそ、ブラック企業社員は辛いのです。また明日も仕事がやってくる。インシデント記録はさらに回を重ねます。

  • 低脅威度動物の収容室に戻し、活性化後直ちに睡眠ガスを噴射→成功。活性化時も呼吸は普通にしている模様。しかも昏睡状態になると非活性化するようです。やったね栗木さん!
  • 上記と同じ設備で収容→口内に換気扇を出現させ、勢いよく換気を行いながら、シリコンによる指紋認証で脱走。甘く見ましたね。プロトコルはまだまだ定まりません。
  • 収容室を森林に偽装→しばらくの間誤魔化せたものの、壁の存在に気付いたのちに活性化して脱走。
  • 屋上に透明度の高いガラスで囲った収容エリアを設け、トラベレーターを作動させて壁への到達を防ぐ→トラベレーターが動いた時点で活性化。発煙筒・砲丸(?)・巨大送風機・ウイングスーツを使って空から撤退。

ウイングスーツを着たリス、見てみたい気もしますが、財団の技術でありつつ未知の規格によるスーツだったらしく、このリスの謎と脅威が深まるばかりです。

 

補遺2

収容開始から3か月経ったある日、担当エージェントが自ら収容室の扉を開け放ち、SCP-1367-JPを収容違反させました。

収容スペシャリスト・栗木によって彼に対しインタビューが行われましたが、このエージェントはカオス・インサージェンシーの手の者でもなく、SCP-1367-JPに未知の精神影響効果があったわけでもありませんでした。

 

彼はただ、連日の収容違反に疲れてしまっただけでした。

正直、疲れすぎてわけわかんなくなってたんだよ。あのクソネズミがどうしても収容違反を起こすってんなら、もうどっかに逃がして俺のいないところに行っちまえばいいと思ったんだ

これを聞いた収容スペシャリスト・栗木。

それだ!

 

と、いうわけで、現在の収容プロトコル、すなわち、

「森の真ん中に収容室を設け、SCP-1367-JPをわざと収容違反させ、非活性化したところを捕らえて戻す」

という手順が出来上がったのでした。

 

まさに特別収容違反プロトコル

限界まで追い詰められた時にこそ、人は打開策を見いだせるのかもしれません。

 

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関連する外部リンク

SCP-539-JP - 星をまもるひと【解説】

基本データ

  • オブジェクトクラス: Euclid
  • 著者: 0v0_0v0
  • 作成日: 2019年5月29日
  • 画像: なし
  • リンク: SCP-539-JP - SCP財団

 

三行で説明!

  1. 様々な異常物品が集められている一軒家
  2. 温厚で協力的な初老の男性が一人で住んでおり、「星を守る」仕事をしている
  3. 忘れられた星座の結晶が降ってくるため、男性はこれを拾って保護している

 

記事の解説

ファンシーで優しい雰囲気の記事です。安心して読めますよ。

 

特別収容プロトコル

SCP-539-JP周辺は土地ごと財団フロント企業が買収しています。

月に1回インタビューと点検が行われますが、この場所に直接出向くのはクリアランスレベル2以上の職員でなければなりません。

いたってシンプルですね。

 

説明

SCP-539-JPは岡山県のとある町にある1軒の家屋です。

いきなり超蛇足なのですが…岡山県の天体観測名所といえば、井原市美星町が挙げられます。文字数も合うので、おそらくここがモデルなんじゃないでしょうか。

岡山県井原市美星町の美星天文台

閑話休題

SCP-539-JP内部の空間は歪んでいて、外から見たよりもずっと広く、2桁㎢の超大豪邸になっています。

といっても、SCP-539-JPにはダイニングフロアと収容室フロアの2部屋しか存在しないようですので、この広大な敷地のほとんどは収容室として使われているらしいことが推測されます。

ダイニングには温厚な性格の初老の男性(SCP-539-JP-A)が一人で暮らしています。

収容室には淡い青色に光る異常物品(SCP-539-JP-B)が多数保管されています。これらの種類は下記のように、生物から無機物まで様々です。

  • 常に5㎝浮遊し、鳴くと空のプレゼント箱が出現するトナカイ*1
  • 抜け落ちた羽根が、フクロウの頭部に似た形のホオズキの実になるフクロウ*2
  • 口から吹く泡がビー玉になる全長わずか5㎝のカニ
  • 光源の向きに関係なく、現在の時刻を影で指し示す日時計
  • 花弁の中心から常に「きらきら星」が流れるユリの花
  • いつでも温かく、冷めない餃子

異常物品を収容、っていうからどんな危ないものかと思えばこのファンシーさよ。

どのようにして-Bが生まれるのかというと、SCP-539-JPでは不定期に空から青く輝く火球(SCP-539-JP-C)が降ってきます。-Cは1000℃以上の熱を持っていますが、-Aだけはこれに問題なく触れることができ、-Aが触れると数分で-Cは-Bに変形します。さながら魔法のような光景ですね。

 

インタビュー記録539-JP-A

-Aのお人好しな性格がよく表れているので、本文を読んでみてください。

担当者の国都博士も、疑うことを知らないいい人なのがわかります。

概略は以下の通り。

  • -Aは数百年生きている(人間ではない)
  • -Aは星守(ほしもり)であり、落ちてきた星たち(=-Cのこと)を保護している
  • -Aは「上司」の命令で星守をやっている
  • この日、国都博士は-Aに振舞われてピザを食べた

収容対象から渡されたもんを勤務中にホイホイ食うなや。

とは思うものの、相手が優しい人なので気を許しちゃうんでしょうね。実際危害は何ら加えられていませんし。

 

インタビュー記録539-JP-B

ピザが美味しかったのか、国都博士は2度目のインタビューを試みました。今度の話題は-Bについてです。

  • 現在ある88個の星座は、1928年に定められたものである
  • その時に"認定"されず零れた星座たちは、-CとなってSCP-539-JPに降ってくる
  • -Aは、忘れられて落ちてきた星座たちを-Bの形に戻し、守るのを使命としている
  • ジェイミソンさんの子たちやレミーさんの子」は全数保護し終わったとのこと
  • 星座は今も世界中の人の想像によって作られ続けており、それらももれなく-Cとなって落ちてくるため、-Aの仕事はこれからもなくならない
  • -Bは別に食べてもよい

といった具合に、終始ほっこりした気持ちで読了できるお話でした。

 

背景知識

史実について

1919年、天文学者らによる国際組織である国際天文学連合IAU)が結成されました。

1922年IAUの第1回総会がローマで開催された際、全天の星座は88個であると定められるとともに、それらの各名称が承認されました。

その際、ベルギーの天文学者ウジェーヌ・デルポルト、カスティールズらが北天の星座に経緯線による境界を設けることを提唱し、案を策定。この案は1928年の第3回IAUライデン総会で可決され、星座の位置は確定されました。

←88星座の神話がわかる本。

星座は古代オリエントギリシア・ローマ、中国など古くから親しまれ、研究されてきたものですので、当然このときに88個の中に入らなかった星座も数多く存在します。

-Aが語った「ジェイミソンさん」と「トレミーさん」とは、それぞれアレクサンダー・ジェイミソンとクラウディオス・プトレマイオスのことを指しています。

ジェイミソンは1782年生まれのスコットランド人作家で、『ジェミーソン星図』を手掛けたことで有名です。すでにフランスやドイツに存在していた星図のイギリス版として作られたものでしたが、中にはジェイミソン自身が考案した「ナイルの水位計座」「ふくろう座」「日時計座」が含まれていました。フクロウと日時計は上に見た通り、-Bの実例リストにも登場していましたね。

プトレマイオスは言わずと知れた古代ローマの知の巨人の一人です。彼が作製した星表をもとに、現在まで世界中で共通して知られる数多くの星座が見出されました。プトレマイオス星表を基にした「トレミーの48星座」は、そのうち47つがIAUの88星座にも採用されています。零れた唯一の星座が「アルゴ座」でして、ギリシア神話に登場する帆船を模したものだったのですが、現在は「とも座」「ほ座」「りゅうこつ座」の、3つの船の部分に分割して認識されています。-Aが『ジェイミソンさんの子たち』と述べているのに対し、『トレミーさんの』とこちらを単数形で呼んでいるのは、トレミー48星座のなかで-Cとなる条件を満たす星座がアルゴ座ただ一つだからだと推察されます。

 

登場星座の元ネタ

というわけで、SCP-539-JPには88星座になれなかった星座が降ってきます。

せっかくですので作中に登場した-Bの元ネタを軽く追いかけてみましょう。 

  • トナカイ…18世紀フランスの天文学者ピエール・シャルル・ルモニエが考案した「となかい座」
  • フクロウ…ジェイミソンが考案(上述)

  • カニ黄道十二星座の一角がなぜ!?と思われるかもしれませんが、これはオランダの天文学者ペトルス・プランシウスが1612年に作製した天球儀に加えられた「子蟹座」です

  • 日時計…ジェイミソンが考案(上述)
  • ユリ…フランスの建築家オギュスタン・ロワーエが1679年に発表した星図に描かれた「ゆり座」*3
  • 餃子&ピザ…さあ、誰が考えたんでしょうね

 

[小ネタ]落ちてきてほしい星座

 ①実在したものの88星座に採用されていないものシリーズより

  • ボルタ電池座(トマス・ヤング[英]考案、1807):長持ちしそう。
  • ケルベルス座(ヨハネス・ヘヴェリウス[波]考案、1690):-Aの手にかかればかわいいわんこになるのでは?
  • 猫座(ジェローム・ラランド[仏]考案、1799):絶対かわいい。
  • フリードリヒの栄誉座(ヨハン・ボーデ[独]考案、1787):青く輝く王冠が見たいだけ。
  • ヨルダン座(ペトルス・プランシウス[蘭]考案、1613):規模がでかい!だから敷地が広いのかもしれませんね。
  • 印刷室座(ヨハン・ボーデ[独]考案、1801):ちゃんと使えたりして。
  • ポロフィラックス(ペトルス・プランシウス[蘭]考案、1592):"天の南極の守護者"という意味。かっこええ…。
  • 帝国宝珠座(ゴットフリート・キルヒ[独]考案、1688):絶対きれいですよね。

②総たいしょーオリジナル星座シリーズより

  • フリーザ:ツイートでも言いましたが、青く輝くフリーザ様が見たい。最近超サイヤ人も青くなりますし。
  • レックウザ:新色違い。
  • 中野サンプラザ:岡山にあれば便利そう(偏見)
  • 必殺技:触ると技を覚えられるスキルオーブ的なそんなん。
  • リレンザ:インフルエンザがもう収容済みならこちらも。
  • ことわざ:触ると諺を覚えられるスキルオーブ的なそんなん。
  • アドバイザー:ヒト型もありなのかな?
  • 楽市楽座:税金が減るといいですね。

 

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関連する外部リンク

*1:言わずもがな、サンタクロースが元ネタです

*2:ホオズキの葉を水につけて放置すると、葉脈だけが残ります。"透かしほおずき"とも呼ばれるこの葉脈を使って、フクロウを模したアートを作ることが可能です

*3:ユリの花はブルボン王家の紋章でもあります

SCP-3311 - ありとあらゆるありふれた椅子【解説】

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基本データ

  • オブジェクトクラス: Euclid
  • 著者: Billith
  • 訳者: C-Dives
  • 作成日: 2018年1月17日
  • 画像: Flickrより(CC BY 2.0)
  • リンク: SCP-3311 - SCP財団

 

三行で説明!

  1. おそらく無限に広がる、多種多様な椅子が陳列されているコンテナ
  2. 中に入った人には軽い認識影響が及び、存在や概念についての考え方が揺らぐ
  3. この空間を作ったのも「椅子」だと思われ、到達可能な最奥には動く椅子が多数ある

 

記事の解説

特別収容プロトコル

閉鎖・施錠し、警備員に扮した財団エージェントを1名配置します。民間人は当然立ち入れませんし、財団職員ですら実験以外では入場禁止です。

Euclidの場所系オブジェクトなので、かなりシンプルな取り扱い方です。

 

説明

SCP-3311は、フロリダ州にある保管ユニット、つまり倉庫です。元々は何かの施設か企業が所有する、ある程度大きい倉庫群だったようで、非異常性の倉庫と隣合わさってくっついているので、SCP-3311だけをこの場所から動かすことができません。つまり、SCP-3311の異常性は後付けで発生したことが示唆されています。

SCP-3311の内部は、ありえないレベルで奥行きが広がっており、財団は585㎞地点まで探査できましたが、未だ向こう側の壁に辿り着けていません。無限に拡張されているとも思われています。しかも廊下はまっすぐではなく微妙にカーブしているため、目視で遠くがどうなっているか判断できないようです。加えて、内部は電波状態が悪く、探査の度に通信用の中継器を配置したり整備したりする必要があります。GPSの信号はSCP-3311の入り口から5m地点で止まってしまいますが、中継器が働いている限り消失はしません。

SCP-3311内部に入った人間は軽い認識災害に見舞われます(詳細は後述の探査記録にて)。

 

SCP-3311最大の特徴は、その無限に続く廊下の両脇に、多種多様な椅子(SCP-3311-1)がずらりと陳列されるショーケースが広がっていることです。

財団は300万脚もの椅子を確認していますが、重複した椅子は1つもなく、世界のどこかに実在する椅子と同一のようです。いわば椅子万博。

しかも、ここにある"椅子"はかなり広義のものらしく、クッションや切り株、椅子でできた椅子、果ては SCP-1609 "椅子の残骸"*1のレプリカまで、腰掛けられるなら"椅子"とみなされていることが窺えます。

 

SCP-3311は、元の利用者の賃料未払いによって差し押さえられた際に、内部の異常な空間を目撃され、財団に発見されました。明らかに怪しいのがこの元の利用者ですね。この人物は老人ホームにいたそうで、財団はインタビューを実施しました。その顛末は記事の最後に登場します。

 

探査ログ

探査ログは3つあります。

Dクラスと博士との会話もわりと面白いですし、内部の異様な光景がありありと目に浮かぶので、ぜひ読んでみてください。

ここでは、各ログの要約にとどめます。

 

探査ログ3311-A
  • SCP-3311への最初の探査で、女性のDクラス職員が担当
  • 3日間かけて254㎞地点まで中継器を設置するのが目的
  • 内部はなぜか明るく、コンクリート製で、静かだった
  • 観察されたすべての椅子には"店頭見本"という彫り込みがなされていた
  • 突如引っ掻き音がし、何者かが存在することが示唆された
  • Dクラスは椅子について思考を巡らせすぎるようになり、「椅子の特色を私が取り入れる」「椅子はイデア」などと発言するようになった
  • 53㎞地点の中継器が突然壊れ、しばらくDクラスとの通信が途絶えた
  • Dクラスは目的を果たして帰還したが、軽度のPTSDと、椅子や椅子に座る行為を嫌がるようになった

SCP-3311の認識災害は、「椅子」の概念を揺るがす効果を持つようです。

もちろん、通常の精神疾病も絡むでしょうが、それにしたって「椅子はイデア」は言い過ぎでしょう。椅子について哲学しすぎて気を病んでしまうわけです。

引っ掻き音を出したり、中継器を壊したりする何者かがいるようですし、まだまだ侮れません。

 

探査ログ3311-B
  • SCP-3311への2回目の探査で、男性のDクラス職員が担当
  • 53㎞地点の壊れた中継器を交換し、前回よりさらに奥に進むのが目的
  • Dクラスが司令部の許可を得てショーケースのガラスを割ると、警報が鳴り響いた
  • Dクラスは椅子のうち1脚に座って「心地いい」と述べた
  • 前回よりも騒音や異音が頻繁に発生した
  • ショーケースの外の通路上に放置された椅子が見つかった
  • 少し目を離した隙に装備品のバックパックが中身を残して無くなった
  • 奥に進めば進むほど陳列されている椅子の奇妙さが増すことが判明
  • 失くしたバックパックはケース内に陳列されていた
  • Dクラスは「空気が椅子の存在で満ち溢れてる」と発言した
  • 300㎞地点でDクラスは何かに体当たりされ、消息が途絶えた

2回目の探査では、Dクラスは帰還できませんでした。

ここでも、「椅子」概念の曖昧化が見て取れます。よく考えたら、座れるなら"椅子"と呼んで差し支えないわけで、リュックも切り株も岩も、時には人間も椅子になり得ます。

そこに思い至った時、「じゃあ私は何なんだ、私は本当に椅子じゃないといえるのか?」というある種の根源的恐怖を感じるわけです。この空間に確実にいる謎の存在よりも、この"問い"こそが本記事のクリーピーさの核をなしています。

 

探査ログ3311-C
  • 中継器の配置機能を備えたドローンによる探査
  • それまでの最大到達地点だった313㎞よりも奥に中継器を設置するのが目的
  • 前回Dクラスが座った椅子は元の位置に戻っていたが、ガラスは割れたままだった
  • Dクラスが消息を絶った地点には彼の装備が残っていたが、本人は見つからなかった
  • ショーケース内で動き回る椅子があり、ガラスを叩いて音を立てていた
  • 400㎞地点半ばから、区画全体が苔で覆われているのが確認される
  • 485㎞地点で、前回消息を絶ったDクラスの死体が椅子の形となって陳列されているのが見つかる
  • さらに奥で、ショーケースの外で動き回る椅子たちと遭遇する
  • 585㎞地点で、ドローンは1脚のアンティーク椅子に踏まれ、ショーケース内に転送され、バッテリーが切れる

奥へ進むほど、"椅子"として展示されている品の珍奇さに拍車がかかるのが面白いです。肉の塊でできたバースツール(下記のような、バーにあるような背もたれ無し椅子)とか。サーキックや石榴倶楽部の方なら喜びそうですけどね。

←バースツール(barstool)。

 

面白いのは、以前の探査ログを担当した2名のDクラスの発言は割と的を射ていたという点です。

人間も"椅子"の概念の範疇に含まれうること、椅子が椅子取りゲームをするらしいこと、椅子に腰かけられる(傍から見たら「踏まれた」ようにしか見えませんが)と、"椅子"認定されて陳列されてしまうこと…。

何度も言うように、"椅子""椅子以外"との概念の境界がどんどんわからなくさせられる空間が、SCP-3311なのです。

 

事案ログ3311.1

ドローンの探査から8日後、あのDクラスの死体でできた"椅子"が、とあるブランドの事務椅子を収めたはずの梱包箱から発見されました。その死体には"店頭見本"という彫り込みがありませんでした。

そういえばSCP-3311の中にある椅子はどれも世界のどこかに同じものが存在するという話でした。つまり裏を返せば、SCP-3311の中で椅子ができた場合、外部の世界のどこかに「正規品」として出現してもおかしくありません。

400㎞地点を超えたあたりでかなり奇妙な"椅子"が多々あったので、財団の仕事は思ったより多そうです。

 

インタビューログ

財団は、収容前のSCP-3311を15年間所有していたレイモンド氏の居場所を突き止め、インタビューを試みました。彼以外にこのコンテナを使った人物がいないため、唯一の重要参考人です。インタビューのあらましは以下の通り。

  • レイモンド氏は財団が来るのを予期していたが、SCP-3311(コンテナ)の件で話に来るとは思っていなかった
  • レイモンド氏はかつて「最初の椅子」に出会い、その椅子の作業場としてSCP-3311を提供した
  • 「最初の椅子」は"形而上学的に大きい"椅子であり、椅子の概念を最大限体現する存在
  • 「最初の椅子」はそれゆえ常識よりもずっと広い"椅子"の範疇の枠内にあり、その広い"椅子"概念を他の椅子に与えることができる
  • SCP-3311が差し押さえられたのは、単にレイモンド氏のお金がなかったから
  • 「最初の椅子」は"椅子"の概念をあらゆるものに適用させ拡げるのを野望としている
  • 「最初の椅子」は"椅子"に命を吹き込む能力をも持つことが示唆される

 

カフカ的解離性

怖いのが、この記事には「メタ」のタグがついていることです。つまり、普段の生活に繋がるホラー要素があるということ。

例えばあなたが今座っている椅子は、椅子ですよね。

座布団でしたか。すみません。じゃあ、その座布団は椅子なんですか?

電車のシートは椅子でしょうか。でしたら、電車全体も椅子なんじゃないですか?

路傍の柵に学生が腰かけていますね。あれはもう椅子で確定でしょう。

あなたは小さい子供を膝に座らせたことはありますか?じゃああなたも椅子なんじゃないですか?

あなたが椅子である、または椅子になる時もある、として、だったら逆に椅子が自分の足で動いてもおかしくないことになりますね。

 

"あなた"と"椅子"の違いは何ですか?

よくよく考えてみてください。

どうぞ、ご自宅の椅子にでも腰かけて。

 

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*1:OC:Euclid テレポートができる椅子。世界オカルト連合に破壊されて以降、敵対的になってしまった。GOCやらかし案件として財団内でよく引き合いに出されている模様。

SCP-1736-JP - スライディング・ドア【解説】

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基本データ

  • オブジェクトクラス: Euclid Thaumiel
  • 著者: Tsukiyomizuku
  • 作成日: 2018年12月23日
  • 画像: 著者にて作成(CC BY-SA 3.0)
  • リンク:SCP-1736-JP - SCP財団

 

三行で説明!

  1. 日本で電車への駆け込み乗車が発生すると、平行宇宙が分岐する現象
  2. たまにエラーが発生し、駆け込んだ人が記録や記憶ごと世界から消滅する
  3. 財団はこの現象の制御に成功し、危険度と緊急性の高い実験試行に利用している

 

記事の解説

まずはダミーの報告書(OC:Euclid)の内容を要約します。

  • SCP-1736-JPは電車のドアに何も挟まってないのに検知器が反応する現象
  • 日本全国の電車に不定期(2日~2年のまばらな間隔)で発生する
  • 当初は超常現象記録に登録されていたが、発生圏の広さと継続性ゆえSCPナンバーが割り振られた
  • 別の異空間系SCPを担当していたエージェント・坂田は、過去にSCP-1736-JPが発生した駅の利用者でもあった重要参考人が行方不明になったと報告した
  • しかし、エージェント・坂田以外に誰もその人物を知らず、記録も残っていなかった

電車に乗ってるとたまにありますよね、ドアが閉まろうとしても2,3回開いちゃうやつ。

もちろんそれは別の車両で駆け込み乗車があったからであり、電車の遅延にもつながる迷惑行為なわけですが…、このSCPではその現象が「どのドアにもなにもなかったのにドアがいったん開く」ものとして取り上げています。

日本全国で発生し得て、発生間隔も不定期とのことで、観測がかなり難しそうです。

 

では、レベル4クリアランスを認証して、このSCPの本質に迫りましょう。

 

特別収容プロトコル

真のオブジェクトクラスはThaumiel。ただごとじゃありません。

ダミーの報告書ではSCP-1736-JPは放置しても問題なく、駅の監視カメラの自動検閲でよいことになっていました。

しかし、真の報告書では、日本国内すべての鉄道車両のすべてのドアに"時空変動観測器"と監視カメラが設置され、ドア開閉のたびに駆動することになっています。これ膨大な数ですよね、めっちゃお金かかるやん。

さらに、別のSCPオブジェクトが生み出したという異空間の中に、以下のものを保存しておくよう定められています。

  • 財団の全データベースのバックアップ
  • 現在進行形の世界情勢の詳細な記録
  • 日本の住民票の全データのバックアップ
  • ※以上は毎日欠かさず更新する

これまた膨大な作業とデータです。

ここまでする理由は、SCP-1736-JP-2が発生した際に、財団が存在する宇宙のデータと、異空間の中にあるバックアップデータを照らし合わせて、差異(=現実改変)が生じた部分を突き止めるためです。

おわかりになるでしょうが、改変されるのはこっちの世界側です。正史は異空間にあるバックアップの方。このため、Thaumielでありながら、SCP-1736-JP-2の発生を食い止める方法が模索されています。

さらに、このプロトコル2032年に以下の通り更新されています。

(2032/8/25追記)SCP-1736-JP-1が観測された場合、担当チームはプロトコル"Alternative"を実施して下さい。プロトコル"Alternative"実施のため、SCP-1736-JP-3はプロトコル"Entrench"に基づいて厳重に管理されます。

ここまででいったんまとめましょう。

  • SCP-1736-JPの真のオブジェクトクラスはThaumiel
  • SCP-1736-JP-1はプロトコル"Alternative"の合図となる
  • SCP-1736-JP-2は現実改変現象のため、前もって異空間に世界のデータのバックアップが保管され、事象発生時にデータ照合・改変箇所の特定が行われる
  • SCP-1736-JP-3はプロトコル"Entrench"に基づいて厳重に管理される。

 

説明

プロトコルでも見ましたが、本来のSCP-1736-JPは3つの異常現象/物品の総称です。

 

SCP-1736-JP-1

-1は、時間軸の分岐現象およびそれに伴う宇宙の分裂現象です。

発生条件は、①人間が日本の駅で駆け込み乗車をしようとすること/②その電車のドアが連動式自動ドアであること/③前回発生から約5時間~10か月のインターバルが経過していること の3つを同時に満たすこと。

-1が発生したその瞬間、宇宙は"対象が乗車できた宇宙"であるSCP-1736-JP-Aと、"対象が乗車できなかった宇宙"であるSCP-1736-JP-Bに分裂します。

-Aと-Bの差異はごくわずかですが、しかし確実に異なる世界線として並走することとなります。-1の発生時に"微弱な時空歪曲波"が発生するのがその証拠です。

 

SCP-1736-JP-2

-2は、上記のカバー報告書で言及されている「SCP-1736-JP」の正体であり、-1の発生エラーです。つまり、本質的には-1と同じもののはずが、まったく異なる結果に終わった場合を指しています。-2というよりはむしろ-1の派生形という感じです。なので下記の通り-1との違いを踏まえるとわかりやすいと思います。

  • 時間軸も宇宙も分裂しない
  • 駆け込んだ人は記録や記憶ごと宇宙から存在が消える
  • 強力な時空歪曲波が発生し、時空間が損傷する

駆け込んだ瞬間にその人がいなくなるなら、自動ドアは普通に閉まるはずですが、どうやらドアだけは-2の影響を受けないようであり、世界から消えて忘れ去られたはずの駆け込み者をドアさんだけは挟んで気付いてくれます。優しい。

対象が経歴ごと抹消されるので、-2による現実改変の影響は甚大です。加えて、不定期に発生しかつ日本の中の誰が-2に巻き込まれるかわからない点が観測と検証を非常に難しくしています。このため、プロトコルで見た措置が取られているというわけです。

 

SCP-1736-JP-3

-3は、とある会社の鉄道車両用ドア開閉装置です。

自動ドアに取り付けられると、電源接続の有無にかかわらず活性化します。その効果は、-A宇宙と-B宇宙で同時に活性状態にある場合に、-3が取り付けられている自動ドアを-Aと-Bを繋ぐポータルにするというものです。

-3になぜこのような異常性があるのかはわかりませんが、互いに非常に似通っている宇宙同士である-Aと-Bを繋げられるというのはなかなか有用です。

ただし、-3が繋ぐことができるのは、直前に起こった-1により発生した-Aと-Bのみであり、それよりも前(枝分かれの大元)の宇宙とは接続できません。

-3を取り付けた自動ドアは、-1や-2が発生した時のドアの動きと連動します。すなわち、日本のどこかで-1が発生すると同時に閉まり、すぐにまた開きます。また、発生したのが-2だった場合、ドアはものが挟まったときと同じ動作を見せます。

 

発見経緯

SCP-1736-JPの中で、先に発見されていたのは-2と-3でした。

-2は、当初はダミーの報告書の通りの現象だと思われており、監視が継続されていました。

-3は単に"取り付けると勝手に動作する自動ドア開閉装置"としてAnomalousアイテムに登録されていましたが、その動作が-2と完全に同期していたことが判明し、SCP-1736-JPの関連オブジェクトに認定されました。その後、観測により-A宇宙と-B宇宙の分岐が発見され、その現象は-1に指定されるとともに、レベル4機密情報となりました。

-2の真の異常性が発覚した経緯として、上記ダミーの報告書に書いてあったエージェント・坂田の証言が関わってきます。ある日に-2が発生した際、エージェント・坂田は別のSCPオブジェクトである異空間の中で仕事をしていたため、彼だけが-2の記憶改変を被らなかったのです。彼の証言によって、-2が人の存在を抹消するという事実が明らかになりました。

 

補遺

"非常によく似た平行宇宙を生み出す"というSCP-1736-JPの異常性は、財団にとっては非常に有用です。その利用法こそがプロトコル"Alternative"*1です。この方法が確立されたことで、SCP-1736-JPはThaumielに再指定されました。

 

プロトコル"Alternative" 概略
  • 危険度の高いプロジェクト(実験)を実行しても人類社会が存続する可能性を高めることが目的
  • -1の発生が確認されたら、直ちに今の宇宙が-Aと-Bのどちらなのかを同定する
  • -Aの財団は、事前にO5評議会が選定したプロジェクトを行う
  • -Bの財団は、-Aへの資源供給が必要な場合を除いて、観察以外の干渉をしない
  • SCP-1736-JP-3はプロトコル"Entrench"に基づいて管理する
  • 実施されるプロジェクトは、緊急性が高く、Kクラスシナリオの発生リスクが高く、成功率30~70%と見積もられ、目的に対する代替プロジェクトが存在し、-Bに与える影響や危険性がごく少ないものに限られる

つまるところ、-Aになったら貧乏くじということです。

駆け込み乗車が成功してしまうと、世界を賭けた実験をする羽目になります。-Bはその顛末をよく観察し、もし失敗して-A宇宙が破滅した場合は別の手段を講じる準備をする、というわけです。

 

プロトコル"Entrench"*2は、-3の取り扱い方のことです。-3はできるだけ使わないよう厳重に保管されます。なぜなら-B宇宙を死守するため

O5-8の解説によれば、プロトコル"Alternative"制定にあたっては反対意見も多く挙がったとのことです。-A宇宙の財団が背負うリスクが尋常ではないのでそりゃそうですけど。

とはいえ、いつかはやらなければならない実験でしょうし、-Aも-Bも全く同じ構成員と主義や思想を持つ「財団」なので、あとになって離反されたりする心配はないそうです。-Aになるか-Bになるかは同確率ですから、このへんはうまく不和なくできてますね。

 

プロジェクト実験記録の抜粋

SCP-2460の軌道を変える

SCP-2460 "暗黒衛星"(OC:Keter)は暗黒物質の塊であり、地球の10万倍もの密度を持ち、電磁荷を全く持たないため、直径22キロメートル以上の小惑星相当の質量でなければ、干渉することができません。放っておけばSCP-2460は徐々に落ちてきて、地球を構成する量子の位相を変換すると考えられています。

この実験では、上述した規模の小惑星をうまいこと接触させずに近づけ、その引力でSCP-2460の軌道修正に成功しました。

SCP-078-JPを宇宙に捨てる

SCP-078-JP "永久カイロ"(OC:Keter)は酸化反応を無限に継続して温度が上がり続けるカイロです。SCP-1736-JPの記事において、永久カイロにはとある事案が起こって収容セルの密閉が不能となり、温度は摂氏4万度を突破してしまっています。

この実験では、超合金ケースに入れて即座に宇宙に運ぶことで事なきを得ました。未来の実験で成功率も52%とはいえ、財団の底力が透けて見えます。

SCP-2191-3原子爆弾で吹き飛ばす

SCP-2191 "ドラキュラ工場"(OC:Keter)はサーキック・カルトにおいてイオンの妾とされる神格で、バルカン半島全域を覆う66万平方キロメートルもの領域に触手を拡げ、寄生生物を生み出しています。まもなく何らかの「子」を産むと言い伝えられており、SCP-1736-JPの記事内ではそれがプロジェクト選定時点からわずか8か月後であるとされています。

この実験は失敗に終わり、SCP-2191-3の子らが解放されてバルカン半島に壊滅的な被害が及びました。ただ、Kクラスシナリオには至らなかったようです。

SCP-571を別の中国支部のSCPオブジェクトで無効化する

SCP-571 "自己喧伝性感染図形"(OC:Keter)は強力なミーム性図形で、これを目にした人はこの図形を描いて他の人に見せる行為にひたすら執心し、餓死するまでそれを続けます。SCP-1736-JPにおいては、この図形がなぜかインターネットで拡散されてしまい、財団による情報統制を懸命に続けたとしてもあと13か月でAK-クラスシナリオ*3に至る見込みです。

この実験では、反ミーム性をもつSCP-CNオブジェクトを使うことで、SCP-571の効果を打ち消すことに成功しました。(ただし、効果が復活する可能性があるのでNeutralizedにはなりません)

SCP-188-KOのワイヤーを加熱することで徐々に膨張させ、切断する

SCP-188-KO "地球の心臓"(OC:Keter)は、地球の重心を少しずつ確実に引き上げ続けているクレーンです。SCP-1736-JPにおいてはあと5年で世界が滅ぶところまで進行してしまっています。ワイヤーを切ると引き上げられた地球の重心が落ちて揺れ動くので、そのショックで地球が壊れる恐れがあります。そのため、この実験ではワイヤーを極限まで引き延ばすことでショックをできるだけ和らげる腹積もりでした。

結果は失敗。地球の重心は本来の位置から95メートルずれたところから落下しました。フランス支部のSCPオブジェクトを利用して、直接的なKクラスシナリオは免れましたが、今回の-A宇宙は地殻変動に脆弱になったとのことで、受けたダメージは深刻そうです。

グレートブリテン島全域に拡散した"SCP-████-ω"をループ空間に閉じ込める

プロジェクト選定時点で、このSCP-████-ωなるオブジェクトはSK-クラス:支配シフトシナリオ*4を現在進行形で起こしているとのことです(「拡散」「SK-クラス」のキーワードから連想されるSCPオブジェクトもいますが、まあ深いつながりはないでしょう)。

このループ空間を作るために3つのSCPオブジェクトを使われ、その間に923名の財団職員と約35000人の民間人が犠牲になったとのことです。グレートブリテン島は事実上放棄されました。

しかもこのSCP-████-ω、SCP-1736-JP-2の現実改変作用によって生成された異常存在なのだそうです。ドアに挟まれて消えていった人たちだったんでしょうかね…。

この事案によって、SCP-1736-JPには無視できない副作用があると判明しましたが、プロトコル"Alternative"は継続されることが決定しています。選択肢を増やせることは未来の可能性が広がるも同義ですからね。

しかしながら、他の多くのThaumielオブジェクトと同様、大きなリスクも抱えているこのプロトコル。分岐し続ける宇宙もどうなるかわからないというわけです。

 

電車のドアが閉まらなくて少しイライラ…、という日常の風景から、思わぬスケールのお話へ連れていかれるSCPでした。

物語のヒントはみなさんの生活のすぐそばに転がっているかもしれないですね。

 

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*1:「代替」「二者択一」という意味の英語。

*2:塹壕で囲む」という意味の英語。

*3:人類の知覚または思考プロセスの崩壊によって、人間がみんな狂ってしまう世界終焉の形。

*4:地球の支配種、すなわち文明の旗手の役割が人類から別の生物種に交代する人類滅亡の仕方。

SCP-1673 - フレンドリー墓地【解説】

 

基本データ

  • 原題: Friendly Graveyard
  • オブジェクトクラス: Safe
  • 著者: Roget
  • 訳者: 非公式日本語訳wiki
  • 作成日: 2012年7月11日
  • 画像: ※上記ツイートの元画像はライセンス不適合のため削除されました。また、本家差し替え後の画像も、CC BY-SA 4.0適用のため、日本支部では暫定的に画像が掲載されていません。
  • リンク: SCP-1673 - SCP財団

 

三行で説明!

  1. ウェストバージニア州にある墓地
  2. 人が中に15分以上滞在すると、動く手足が地面から現れる
  3. 手足は対象者の身の回りの世話をしてくれるが、力が強すぎて最悪の場合殺される

 

記事の解説

シンプルな記事なので三行でだいたい説明できてしまいました。

下記ではより細かい内容を追いかけていきますね。

 

 特別収容プロトコル

墓地の周りに500メートルの囲いを設け、6人の警備員を配置。

そのさらに外縁も高さ1.5メートルの壁で囲い、警備員を20メートルおきに配置。

壁の外周は当然500メートル以上あるでしょうから、少なくとも25人の警備員が壁の周りに立っていることになります。こんなに必要なのかはわかりませんけど。

立ち入り者の記憶処理にもし失敗したら終了措置が取られます。

終了措置がわりと軽率なのも初期オブジェクトならではですね。

 

説明

SCP-1673があるとされる「ウェストキン町」は、架空の地名のようです。

墓地の広さは1.4 ヘクタール。広めの高校の校地面積がこのくらいあります。

SCP-1673は午後7時~午前4時までの夜中にしか活性化しません。それも怖いな。

 

慣れればけっこう可愛いじゃないか(個人の感想)

人が上記の時間にSCP-1673に入ると、時間の経過とともに以下のことが起こります。

  • 15分経過後…土でできた手足が地面から出現し始める
  • その後1~3時間…手足が対象者の後をついて回る
  • さらにその後…手足が対象者の身の回りの世話をし始める

けっこう長時間いないと接触してこないんですね。SCPの中ではかなり温情があります。

 

しかしまわりこまれてしまった!

まあ、普通の神経をした人間だったら夜中の墓地で地面から手足が生えてきたらビビリ散らして逃げるでしょう。その場合、手足は対象者を全力で追いかけて逃走を妨害してきます。

手足が何をしてくるかというと、

靴紐を結ぶ、身嗜みを整える、衣服から埃を払う、マッサージを施そうとするなど、対象にとって有益となる些細な行動を試みます。

…やだ、いい人じゃないの。

 

とはならず、この手足の力は極端に強すぎて、対象者は深刻な怪我を負い、最悪の場合死に至ります。まさにおせっかいなドジっ子マドハンドというわけです。骨が折れるパワーで埃を払ってくる無数の手足。シュールですが非常に迷惑です。

うっかり対象者を殺してしまった場合、この手足は罪悪感からか、対象者の遺体をすぐに埋葬します。シュールですが非常に迷惑です(2回目)。

 

ちなみに

ツイートをした当時では、おそらく無加工と思われる上記の画像が存在したのですが、 現在はライセンスポリシーに適合しなかったため削除されています。

これに代わり、本家スタッフさんが新しい画像を用意してくださったのですが…、

その画像の素材の1つがCC BY-SA 4.0ライセンスで公表されたものであるため、SCP-1673の本家の新しい画像も、CC BY-SA 4.0ライセンスが適用されています。

4.0ライセンスはSCP財団が採用している3.0ライセンスとの互換性を持たないため、早い話が本来この新しい画像はSCP財団のコンテンツとして使えないのです。

日本支部スタッフならびにメンバーは画像ライセンスに相当気を配っていますので、本家の新しい画像を自主的判断で使用していません。

以上の経緯から、本ブログでもSCP-1673の画像は掲載しておりません。あしからず。

 

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【ゆっくりSCP解説】フレンドリー墓地 SCP-1673

SCP-1507 - ピンク・フラミンゴ【解説】

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基本データ

  • 原題: Pink Flamingos
  • オブジェクトクラス: Safe Euclid
  • 著者: Roget
  • 訳者: 非公式日本語訳wiki
  • 作成日: 2012年2月27日
  • 画像: 著者にて撮影(CC BY-SA 3.0)
  • リンク: SCP-1507 - SCP財団

 

三行で説明!

  1. 本物のフラミンゴのように動き回る26体のプラスチック製の庭用置物
  2. 耐久性は普通のプラスチックと同じだが、人に敵対的で、目や顔を攻撃してくる
  3. 不定な数の未収容の個体がおり、突然その仲間を読んで暴動を起こす

 

記事の解説

特別収容プロトコル

モノでありながら、標準的な野生観察房に収容されます。

かつてはスタッフと遊ぶのを好んでいたようですが、今はスタッフが収容房に入る時は必ず保安要員付きで、フルフェイスヘルメットとアーマーを身につけなければなりません。

また、普段よりもさかんに鳴き声を発する場合は、消音スピーカーで打ち消します。 

説明

SCP-1507は、フロリダ州の会社が作ったプラスチック製品なのですが、なぜか野生のフラミンゴと同じパターンの自律行動ができます。

耐久力は通常のプラスチックと同じですが、やたら攻撃力が高く、囲いの中に入ってきた人間の目や顔を狙って嘴や爪で攻撃してきます。痛え。

いやらしいことに、人間と出会ってしばらくは大人しいふりをして油断させてから攻撃に入るようです。

1991年9月、フロリダ州の住居で「フラミンゴの庭飾りに襲われている」という通報を受け、15体のSCP-1507が発見され収容に至りました。財団が駆け付けた時にはすでに、通報者のご老人は刺し傷だらけで亡くなっていました。プラスチックとはいえ数と鋭利さがあれば殺傷能力は十分です。

ちなみに、この発見経緯については個別のtale記事「フラミンゴ」で描写されています。けっこうえげつない殺され方をしていたことがわかりますよ。

補遺

収容後、2件の事件が発生しました。

収容が始まってからしばらくはまだ、SCP-1507たちは財団職員と遊べる程度に大人しかったのですが、ある日1人の研究員が自己防衛のためにSCP-1507の個体を叩き落としたところ、その個体にヒビが入りました。これをきっかけにSCP-1507と財団職員との関係にもヒビが入り、彼らの攻撃性が格段に高まりました。これが事件1507-Aです。 

それから3週間後、SCP-1507は突如として独特な鳴き声を立て続けに発しました。

さらに丸2日近く経ったころ、 外部からSCP-1507個体が新たに11体飛んできて、元々サイトにいた15体を解放し、一斉に収容違反しました。

結果、負傷者11名・死者4名を出すけっこうな惨劇となってしまいました。これが事件1507-Bです。

外に未収容の個体がいる可能性があると判明したことで、オブジェクトクラスはSafeからEuclidに引き上げられました。

補遺2

モノが群れとなって動き回るという性質から、SCP-1507の起源はSCP-243 "生命を吹き込むもの"ではないかという仮説が立てられています。

 

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SCP-3866 - 安くて楽しい by dado【解説】

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基本データ

  • 原題: Youth In Asia by dado
  • オブジェクトクラス: Safe
  • 著者: Captain Kirby
  • 訳者: C-Dives
  • 作成日: 2018年5月26日
  • 画像: Max Pixelより(PD)
  • 受賞歴: 終末の日コンテスト第2位("死の終焉ハブ")
  • リンク: SCP-3866 - SCP財団

 

三行で説明!

  1. 飲むと脳活動が著しく緩やかになり、冬眠のような状態になる薬
  2. ΩK-クラス“死の終焉”シナリオが起こった世界線でのお話
  3. 薬剤師兼店舗オーナーをしている要注意人物の「dado」が作った

 

記事の解説

 特別収容プロトコル

非常に短くてシンプルですので、全文引用しちゃいますね。

 既知の全SCP-3866実例はサイト-23の安全ロッカーに保管されます。実験は長期ヒト型生物収容ポッドが利用可能な場合のみ行われます。

 …これだけです。読んだままの通りですね。

後述の通り、飲むと数か月間眠ってしまうので、ロングスパンで実験することになります。

 

説明

SCP-3866は、フロリダ州の非公認医療施設で財団が押収したものです。

SCP-3866は即効性で、飲むと脳の活動が急激に低下し、心拍数も1拍/約34日*1というほぼ停止レベルまで遅くなります。

生き物の心臓が一生のうちに拍動する回数はだいたい決まった数になるといわれています。身体の活動がほぼ止まるということは、その分長生きできることを意味します。

シミュレーションでは、SCP-3866を飲んだ状態なら、酸素や栄養の供給さえ継続されていれば、軽く3000年以上は生きられると見積もられています。

 

補遺SCP-3866-1

補遺1にはこのオブジェクトの発見経緯が書かれています。

発見したのは財団の機動部隊イプシロン-6(“村のアホ”)*2でした。

彼らがフロリダの医療施設まで派遣された理由は、この施設が地域住民の自殺幇助を行っているとの疑いがあったからです。

 

…もちろん、ただの自殺幇助なら普通の警察が動けばよく、財団は動いたりしません。

わざわざ財団の機動部隊が動いたのは、「自殺幇助」という行いを実行できていること自体が異常だという確信があったからです。

 というのは、財団が動いた時点で、世界では生き物が死ななくなっていたからです。

 

ΩK-クラス“死の終焉”シナリオとは?

文字通り、「死」の概念が突如としてなくなった世界になることを指します。

問題なのは、変化が起こったのは死についてだけで、その他の人間の生理活動は変わらないということ。加齢もすれば出産もするし、痛みも苦しみも感じるわけです。

この辛さは計り知れません。

(この、死がなくなったという設定の世界観の上に成り立つ記事は、本記事の著者であるCaptain Kirbyさんが中心となって立ち上げられた「死の終焉ハブ 」にまとめられています。ご興味があればぜひ他の記事も読んでみてください。)

 

つまり、「死なない」という異常な摂理が原則となってしまった世界が舞台であるため、安楽死できる薬」は"異常物品(アノマリー)"として財団の収容対象となる、というわけです。

 

 「死ねる薬」の甘い誘惑

死の終焉した世界では、安楽死が全人類の夢となっています。

死は救済どころではなく、ここでは死こそ医療なんですよね。 

ところが、財団ですら「死ねる技術」を開発できていない*3にもかかわらず、フロリダのモグリの医療施設で安楽死医療が行われているというのはいかにも怪しい。

そこで、財団は機動部隊を派遣した、といういきさつだったわけです。

 

その結果、この施設の医療行為は異常ではありましたが、詐欺でもありました。

アノマリーを使ってはいたものの、患者は死ねていなかったのです。

 

イプシロン-6はこの施設のオーナーと従業員を全員拿捕しました。

オーナーのポスマン氏の携帯からは、"dado"と呼ばれる人物とのメッセージ記録が残っていました。

このdadoこそ、SCP-3866の製造者です。

 

dadoとは?

本家SCP著者界の風雲児djkaktusさんが生み出した要注意人物*4

2018年1月31日に投稿されたSCP-3521 "強制的バナナ等価線量 by dado"にて初登場しました。

 

異常な製薬技術を持っており、クライアントの希望に沿った薬を、目的通り正確に、かつ迅速に製造するとてつもない腕を持っています。

…が、どうにも英語が上手でなく*5、完成品は顧客のニーズから微妙にズレた解決法へ導くものとなっているのが特徴です。

効果は完璧だが目的がそもそもズレている、というのがdadoスタイル。

その他、Amazonプライム会員であり送料いらずなことをセールスポイントにしたり、クリーニング店と日焼けサロン(dado本人いわく「せんたくとひやけ」)のオーナーであることを公表していたりと、謎多き人物です。

 

ねむい じかん おひるね とる させる おくすり

そんなdadoが作ったSCP-3866。

例にもれず、この薬も本来の目的とはズレています。

 

dadoはポスマン氏から「安楽死用の薬を作ることは可能か?」と尋ねられるも何のことかわからず、「やすたのしよう?」と答えます。

さらに「人を殺す薬だ。苦しくない、安らかに眠れるような」とのオーダーを受け、dadoは「おー。 はい はい わたし あなたの ための おくすり ある。 いちばん ながい ねむり。」と答えました。

 

ポスマン…安楽死の薬だと思っている

dado…長くぐっすり眠れる薬だと思っている

 

うーんこのすれ違い。

ポスマン氏はそのまま勘違いに気付かず、dadoからSCP-3866を受け取り、患者たちに投与し始め、安楽死ビジネスを続けた結果、財団に嗅ぎつけられたというわけです。

 

補遺SCP-3866-2

7月の上旬になり、この医療施設の裏手から絶叫やすすり泣きが聞こえるという報告が相次ぎました。

声の主は、SCP-3866を飲んで眠りにつき、従業員らによって勝手に埋葬された541名もの元患者たちだったのです(しかもその内491人は棺に入ってすらいない)。

念願の叶ってようやく死ねたと思ったのに死ねず、しかも薬の効果が切れて起きたら真っ暗で虫の這い寄る土の中。まったくひどい仕打ちです。

 

とんだ詐欺に遭った患者たちは、財団によって掘り起こされ、記憶処理を受けて元の生活に戻っていきました。

 

ちなみに

原題は"Youth In Asia by dado"となっています。

直訳すれば「アジアの若者」ですので、なんのこっちゃ?と思うタイトルに見えますが…、

これは「ユースィネイシャ」と発音しますので、"euthanasia(ユーサネイシャ、安楽死の意)"という英単語と同音語となります。

安楽死」をdado流に表現した場合のタイトルだった、というわけです。

『安くて楽しい』は、非常に巧い訳語だといえるでしょう。

 

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関連する外部リンク

 

w.atwiki.jp

*1:成人の平均心拍数は約70拍/分。したがってSCP-3866を飲んだときの心拍リズムはなんと約343万分の1!

*2:農村部や都市郊外の環境における異常存在の調査を専門とする部隊。英語の"Village Idiot"は美術や社会学で用いられる用語で、多くの場合知的障害や無知さゆえに村落の社会規範や支配階級の意志に従わない者達を指します。

*3:死の終焉した世界でも死ねる現在唯一の手段として、SCP-4514 "お前を殺す物"が使えますが、財団の技術ではまだ死ぬことができません。

*4:本家ハブページのディスカッションや、海外のYouTube動画によれば「ダドー(dah-doh)」と読みます

*5:dadoの打つメッセージは大文字がなかったり、発音で単語を覚えているせいかスペルミスが多発していたりします。日本語版では「漢字を使わない」、「てにをはをちぐはぐにさせる」ことで、このカタコトさを上手に表現しています。